先週は、ad:tech tokyoに参加したり、JIAA 第1回ネイティブ広告事例研究セミナーでモデレーターを務めるなどデジタル広告に関して考えさせられる機会を多くいただきました。
あちらこちらで話題になるViewabilityに関しては、Viewable imp, Viewable CPMに移行するのは時間の問題ですし、Viewabilityの定義論、すなわち何%の面積が何秒表示されたら"Viewable"かという定義も近い将来統一されていくでしょう。
ただ、定義には必ず前提があって、米国の広告主や広告業含む三業界団体(3MS)が提唱しているのはデスクトップPCのディスプレイ広告の場合は、広告ユニットの面積(ピクセル)50%が1秒以上表示された場合、デスクトップPCのビデオ広告の場合は、同様に面積50%が2秒以上表示された場合をViewable Impressionと定義しています。Viewabilityといっても、デスクトップのディスプレイ広告、ビデオ広告という前提が置かれていることを忘れてはなりません。
ここで二つ考えなければならないことがあります。まず一つはViewabilityの潮流の本質はどこにあるのかという点。もう一つはネイティブ広告におけるViewabilityは何を指すのかという点。それぞれ考えてみたいと思います。
1. Viewabilityの本質はどこにあるのか?
Viewable impというのは、実質的に見られた(であろう)数を測定するということですから、広告業界やPR業界ではない方からみたら、impression(表示・露出)の実質的な数を測定するというのは当たり前のことだとお感じになると思います。では、これまでのimpressionは何を測定してきたかというと、ad server(広告配信サーバ)から配信された数を測定してきたわけです。そうではなくて、ユーザーに実質的に見られたであろう数を測定するという潮流です。
その本質は、「量から質への転換」です。単にシステム的な表示回数を増やせばいいという量ではなくて、「実質的に見られた数」という質を担保した数を測定するということです。そう考えると、Viewabilityというのは、質を担保する一つの要素に過ぎないという見方ができます。
現在、デジタル広告業界においては、多くの論点があります。例えば、アドブロック、アドフラウド、ブランド保護といったもので、これらは一つひとつがバラバラになっているわけではなく、「量から質への転換」という潮流の中で起こっている論点のように思います。
例えば、アドフラウド(Ad Fraud)というのは、広告詐欺のことで、いわゆるBOTによる不正アクセスやドメインロンダリングといった手法で不正にimpressionやクリック数を稼ぐことで、広告主にとっては全くもって意味のないimpressionです。アドフラウドを除外するというのはまさに質を担保して数を測定する試みの一つです。
ブランド保護(Brand Safety)というのは、広告主のブランドを守るために、広告を配信するメディアを選定することです。その選定基準は、当然広告主や広告主が属する業界によって異なります。製薬業界にとってのブランド保護の基準と、ラグジュアリー業界にとってのブランド保護の基準は異なって当然です。具体的にはサイトを幾つかのカテゴリに区分して、ブランド保護基準に応じて配信先を選定します。人種差別をしているサイト、ポルノサイト、ポルノではないが肌の露出が多いサイト、政治的な主張をするサイト、匿名掲示板サイト・・・といった形で区分します。広告主にとってブランド棄損の可能性があるサイトに広告が配信されてもそれは意味のないimpressionでしょう。これも量から質への転換です。
こうみていくと、Viewabilityというのは広告主にとっても、優良なコンテンツ・オーディエンスを持つパブリッシャーにとっても、量から質への転換を示す一つの構成要素であり、質を担保したimpressionを新たに定義する必要があります。仮に、広告主にとって、本当に意味のあるimpressionを「Effective impressions(有効なインプレッション)」として簡単に図解してみました。
Gross Impressionsというのは上述した通り、アドサーバから配信された数のことで、そこからFraud-free、つまりアドフラウド(広告詐欺)を除外し、Brand Safeのサイトに配信された数のみを測定した上で、実際に見られたであろうViewability(In-view)の数を測定する。それをEffective Impressionsとしました。これはあくまで一つの考え方ですが、量から質への転換の潮流を踏まえると、Viewability以外の要素も考慮したimpressionの議論が今後起こるのは間違いないでしょう。
2. ネイティブ広告におけるViewabilityとは何を指すのか?
回帰分析の前提は、正規分布なのか、ポアソン分布なのか、それとも負の二項分布なのか。クラスター分析の前提は、ユークリッド距離なのか、マハラノビス距離なのか、それともコサイン類似度なのか。それは扱うデータによって決まる、というように、定義を語るには前提があるというのは述べてきた通りです。
現在、Viewabilityといえば、デスクトップPCにおけるディスプレイ広告とビデオ広告の定義が前提となっています。一方、モバイル(スマホ・タブレット)広告やアプリ広告におけるViewabilityの定義は統一された定義がなされていませんが、ディスプレイ広告とビデオ広告という観点においては近い将来統一した定義がなされていくでしょう。
一方、ネイティブ広告のViewabilityとは何を指すのでしょうか。IABのNative Advertising Playbookにおいて、ネイティブ広告は六つの類型がなされています。その中でも、市場が伸びている、もしくは一般的にネイティブ広告と言われるものはインフィード広告とレコメンドウィジェットの二つを指すことが多いでしょう。実際、IABでは、2015年7月にDeep-Dive on In-Feed Ad UnitsというPlaybookを補完するホワイトペーパーを出しました。
普通に考えれば、ネイティブ広告のViewabilityというのは、インフィード広告や、レコメンドウィジェットを通じて配信される広告ユニット(例:関連コンテンツ・おすすめコンテンツ)が実質的に見られたかということになるでしょう。その定義は当然まだされていませんが、ディスプレイや動画広告と同様に下記の4点を前提に置いた上で定義されることになると思われます。
・PCとモバイルの区分
・モバイルの場合はブラウザ広告かアプリ内広告か
・モバイルの場合はブラウザ広告かアプリ内広告か
・広告ユニットの面積の何%表示されたか
・何秒表示されたか
これはViewabilityの話であって、ネイティブ広告の価値という側面からみれば、もちろんViewabilityの議論は一部でしかありません。なぜなら、インフィード広告も、レコメンドウィジェットも「枠」に関する話であって、ネイティブ広告を構成するのは、「枠の価値」だけではなく「コンテンツの価値」や「オーディエンスの価値」という側面もあるからです。
インフィードやレコメンドウィジェット枠の広告ユニットで表示されるのは、せいぜい見出しタイトルくらいであって、インフィードやレコメンドウィジェット枠から飛んだ先のコンテンツ(ストーリー記事や動画など)にはViewabilityという概念がなくなります。
むしろ、時間という概念が大事になってきます。PVやUUは量の指標ですが、記事コンテンツがきちんと読まれたのかということはわかりません。動画再生回数も量の指標ですが、最後まで動画が観られたのかということはわかりません。量から質への転換が必要です。では、時間の概念が大事といっても滞在時間を見ればいいかというとそうでもありません。現状の滞在時間は、トイレに行っている間もブラウザを立ち上げていればその間もカウントされるし、ブラウザを立ち上げたまま、他のアプリケーション、例えばパワーポイントで作業していても滞在時間としてカウントされてしまいます。実質的な時間の測定が必要で、技術的には既に測定可能になっています。
インフィードやレコメンドウィジェット枠の広告ユニットで表示されるのは、せいぜい見出しタイトルくらいであって、インフィードやレコメンドウィジェット枠から飛んだ先のコンテンツ(ストーリー記事や動画など)にはViewabilityという概念がなくなります。
むしろ、時間という概念が大事になってきます。PVやUUは量の指標ですが、記事コンテンツがきちんと読まれたのかということはわかりません。動画再生回数も量の指標ですが、最後まで動画が観られたのかということはわかりません。量から質への転換が必要です。では、時間の概念が大事といっても滞在時間を見ればいいかというとそうでもありません。現状の滞在時間は、トイレに行っている間もブラウザを立ち上げていればその間もカウントされるし、ブラウザを立ち上げたまま、他のアプリケーション、例えばパワーポイントで作業していても滞在時間としてカウントされてしまいます。実質的な時間の測定が必要で、技術的には既に測定可能になっています。
オーディエンスの価値という側面も重要です。例えば、オウンドメディアにきたオーディエンスを二つに分けるとしましょう。一つはディスプレイネットワークからきたオーディエンス。もう一つは、インフィード広告もしくはレコメンドウィジェット枠・記事型コンテンツのネイティブ広告からきたオーディエンス。流入数はディスプレイネットワークからきたオーディエンスが多かったが、直帰率は高く、滞在時間も短かった。一方、ネイティブ広告からきたオーディエンスは、数は少なかったが、直帰率は高く、滞在時間は長かった、つまり回遊率が高かった。
どちらが良いかは、その広告の目的がダイレクトレスポンス型(例えば、リタゲオーディエンスを増やすなど)なのか、ブランドエンゲージメント型(例えば、潜在層に対して興味喚起を促す)なのかといった目的によって異なります。しかし、オーディエンスの価値というのもネイティブ広告の価値を測るにあたって必要ではないでしょうか。
量から質への転換ーーー
これまでデジタル広告の世界で何年も語られてきたことが、ネイティブ広告・動画広告といったブランド広告にも活用できる新たな手法が生まれたことでいよいよ実現に迫っている気がします。そのためには、1)質を構成する要素は何か、2)その要素を示す指標はあるか、3)新たな課金方法という三つが整って初めて三方良しの関係が築けることになるでしょう。
1. その定義の前提は何か
2. Viewabilityの先にあるEffectivenessという考え方
3. ネイティブ広告における枠の価値・コンテンツの価値・オーディエンスの価値
4. 数だけでない時間の概念
5. 質の構成要素・指標・課金方法
検討するべきことは多いですが、それは市場成長性がある証左。これからも業界貢献に向けて努力を重ねて前に進むのみです。ご指導の程、宜しくお願い申し上げます。
太田滋
どちらが良いかは、その広告の目的がダイレクトレスポンス型(例えば、リタゲオーディエンスを増やすなど)なのか、ブランドエンゲージメント型(例えば、潜在層に対して興味喚起を促す)なのかといった目的によって異なります。しかし、オーディエンスの価値というのもネイティブ広告の価値を測るにあたって必要ではないでしょうか。
量から質への転換ーーー
これまでデジタル広告の世界で何年も語られてきたことが、ネイティブ広告・動画広告といったブランド広告にも活用できる新たな手法が生まれたことでいよいよ実現に迫っている気がします。そのためには、1)質を構成する要素は何か、2)その要素を示す指標はあるか、3)新たな課金方法という三つが整って初めて三方良しの関係が築けることになるでしょう。
1. その定義の前提は何か
2. Viewabilityの先にあるEffectivenessという考え方
3. ネイティブ広告における枠の価値・コンテンツの価値・オーディエンスの価値
4. 数だけでない時間の概念
5. 質の構成要素・指標・課金方法
検討するべきことは多いですが、それは市場成長性がある証左。これからも業界貢献に向けて努力を重ねて前に進むのみです。ご指導の程、宜しくお願い申し上げます。
太田滋
ありがとうございました..
返信削除Naskah Pidato