2023年4月3日月曜日

23新卒入社式式辞「やさしい人になろう」


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 本日、 2023年度の新卒6名が入社しました。式辞では、「やさしい人になる」ことについて述べました。やさしさには二つの意味があります。優しいやさしさと、厳しいやさしさ。自分にも、他人にも優しく、厳しくあって欲しい。そんな思いを込めました。よろしければご一読ください。以下は式辞の原文です。

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2023年4月3日

2023年度 新卒入社式 式辞

ビルコム株式会社

代表取締役兼CEO 太田滋

 2023年度新入社員の皆さん、入社おめでとうございます。コロナ禍で皆さんとの面接は全てオンラインでしたが、入社式はこうして対面で実施することができて心から嬉しく思います。ビルコムを代表して、皆さんの入社を心から歓迎いたします。本日は式辞として「やさしい人になる」について述べたいと思います。


 ビルコムは2023年10月に創業20周年を迎えます。これまでの20年間、ビルコムは中途入社の方だけでなく、数多くの新卒が事業成長を支えてきました。2005年に新卒一期生として入社を決めてくれた取締役の早川さん。経営会議メンバーの田中さんと茅野さんは、それぞれ2008年、2009年新卒入社です。社内を見渡せば、事業部のリーダーの半数以上は新卒入社です。長く活躍する新卒のリーダーがいることは、ビルコムの誇りです。どうして新卒のリーダーが多く育ったのか。私は、「やさしい人」がビルコムには多いからだと思っています。


 やさしさには、二つの意味があります。優しいやさしさと、厳しいやさしさです。優しいやさしさとは、許容することです。仕事をしていれば、挫けることがあります。自分が思い悩むときもあれば、他人が自責することもある。そのようなときに許容します。これが優しいやさしさです。一方、厳しいやさしさとは、理想を追い求めて妥協しないことです。仕事の要求水準を下げず、厳しいことでも率直に伝える。自分に妥協しないし、相手にも遠慮しない。厳しい言葉でも、裏側にはやさしさがあるのです。


 優しいやさしさと、厳しいやさしさ。共通するのは他者を思いやる、利他の心です。皆さんにはやさしい先輩が多くいます。甘いことだけでなく、本気で自分のことを思ってくれる仲間がいます。皆さんもやさしい人になることを期待します。社会に出るということは、視点を自分から他者にスイッチすることです。本気で相手を思い、相手のためになることをやり続ける。そうした行動が感謝され、仕事の成果に繋がるのです。善い仕事をして、ビルコムのミッション「共感あふれる未来をつくる」を共に実現してまいりましょう。入社を心からお祝いいたします。本日は誠におめでとうございます。




2022年4月1日金曜日

22新卒入社式式辞「見えないものを生み出そう」


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本日、 2022年度の新卒4名が無事に入社しました!全員が留学経験者(デンマーク、サンフランシスコ、ネバダ州リノ、カリフォルニア州モントレー)ということもあり、多様なバックグラウンドを持つ仲間が増えました。式辞では、普段から仕事をする上で意識している「見えないものを生み出す」ことについて述べました。

以下は式辞で述べた原文です。


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2022年4月1日

2022年度 新卒入社式 式辞

ビルコム株式会社

代表取締役兼CEO 太田滋


2022年度新卒入社の皆さん、本日は入社おめでとうございます。ビルコムは今年で創立19周年を迎えますが、新卒で入社した方々が、今に至るまで長く活躍してくれています。今の経営メンバー7人のうち、私を除き半分の3人が新卒入社です。もう3人は中途入社です。将来、皆さんの中から経営幹部になる人が出てくると思うと、心からわくわくします。ビルコムを代表して、皆さんの入社を心から歓迎いたします。


ビルコムは今年の1月にミッションを改訂しました。「共感あふれる未来をつくる」が私たちの新しいミッションです。今、私たちの周囲を見渡すと、暗いニュースが続いています。長引く新型コロナの影響、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、資源高・インフレ・円安といった景気懸念など閉塞感が漂っています。このような時代だからこそ、前向きな、明るい社会を創りたいという想いを込めて、「共感あふれる未来をつくる」というミッションを掲げました。


本日、皆さんに贈りたい言葉は「見えないものを生み出そう」です。会社の評価は、目に見えるもので測られます。売上高や利益、従業員満足度、組織体制などです。ビルコムでは経営ダッシュボードという300項目にわたる定量指標で経営の状態を月次で管理しています。経営の改善では主にこうした目に見える指標を変えていきます。しかし、それだけでは不十分です。経営には、定量指標の裏側にある「見えないもの」が大切です。見えないものとは、共感や信頼、理念、情熱、企業文化などです。見えないものを大切にするからこそ、数字に魂が入っていく。仲間が動く。感動が生まれる。


皆さんが今日から取り組む仕事も同じです。目に見えないものを大切にしていきましょう。礼儀、善意、美意識、個性、努力。私たち一人ひとりの見えないものを大切にする行動が、お客様から支持され、皆さんの信頼と成長に繋がっていきます。新しい時代を切り拓き、データとテクノロジーでPRを進化させ、お客様・パートナー・仲間と共に価値を創り、ミッション「共感あふれる未来をつくる」を実現してまいりましょう。ビルコムへの入社を心からお祝いいたします。本日は誠におめでとうございます。





2022年1月31日月曜日

ミッションを改訂しました


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2022年1月。ビルコムはミッションを改訂しました。
















新しいミッションは「共感あふれる未来をつくる」です。









旧ミッションから新ミッションへ


ミッションステートメントを全面的に見直すのは2014年6月30日以来、7年半ぶりです。


ミッションステートメントの構成











改訂に伴って、ミッションステートメントの構成も変えました。

これまで、ビジョン・ミッション・バリュー(ビルコムの原則:通称ビルゲン)という3つの構成だったのをミッションとバリューの2つにしました。新ミッションは、これまでのビジョンの位置づけ「あるべき社会の姿」を内包しているため、ビジョン「世界をより感動できる社会にする」をなくしました。



ミッションを改訂した理由

ミッションステートメントを本当に改訂するべきか、どういう構成にするかとても悩みながら進めました。今のビジョンやミッションに共感して入社を決めた社員も多いからです。それでも、ミッションを改訂しようと思った理由は3つあります。


1. ビルコムに対する外部からの評価が変わってきた


特に、2017年にSaaS事業として開始したPR Analyzer®の存在が大きいのですが、お客様からビルコムに対してご評価いただくポイントが変わってきました。


「ビルコムに決めた最大の理由は、PR Analyzerによるデータの可視化。」

「PR Analyzerでデータに基づいた広報戦略ができること。」

「PR Analyzerを活用したロジカルな部分が良い。」

※いずれも2021年上半期顧客満足調査「ビルコムの強み」回答より原文抜粋


こうしたお客様の声に象徴されるように、ビルコムの強みである「チーム×データ×テクノロジー」の要素をミッションに盛り込めることができないかと考えました。



2. 社会に対してビルコムが果たす使命を明確にしたい


これまでの旧ミッション「顧客企業のサステナビリティに貢献する」は、お客様のあるべき状態しか規定していませんでした。新しいミッションでは、お客様の先にいるステークホルダーや社会のあるべき姿を描きたいと思いました。企業にとってPRの位置付けが変わってきたからです。

統合型コミュニケーション、採用PR、個人株主向けIR、インターナルコミュニケーション、危機管理広報、Webマーケティング、ブランディングなど、PRは企業とステークホルダーを取り巻くコミュニケーションの中核的な機能として位置付けられるようになりました。お客様の先にある社会に対してビルコムが果たす使命を明確にしたいと考えました。


3. 捉えている社会課題を解決したい


栄枯盛衰は世の常ですが、魅力が伝わらず、共感されないまま終わりを迎えることが多いと感じています。例えば、半世紀以上続いていた伝統的なスポーツの大会がなくなってしまったり、多くの方々に愛され続けてきた文化施設や商業施設が閉鎖されたり、それ以外にも老齢化したブランド、誤解されたままの会社もあります。

一方、共感されないだけでなく、負の感情が表出することも増えました。企業や地方自治体の広告がSNSで炎上して中止になる。ふとしたときに垣間見られるハラスメント。情報発信者側と、世の中の認識に大きなギャップが生まれています。負の共鳴や分断の連鎖といった社会課題に対して私たちができるアプローチで解決したいと思いました。

こうした3つの理由により、新たなミッション「共感あふれる未来をつくる」が生まれました。


新ミッション











データとテクノロジーでPRを進化させる

新ミッションに、「データとテクノロジーでPRを進化させる」という言葉を入れました。

2003年に創業して、これまでの約20年間を振り返ってみると、微力ながらPR(と業界)の進化に貢献してきたのではないかと自負しています。


2003年創業当時の一般的な広報活動は、プレスリリースを作成・配信して、メディアからの問い合わせを待つという受け身の姿勢でした。それを、メディアの方と一緒に企画を考え、取材のサポートを積極的にする攻めの広報活動に進化させました。











2009年に書籍「WebPRのしかけ方」を上梓させていただきました。マスメディアだけでなく、WebやSNSを活用した戦略的なPR活動の事例やノウハウをまとめました。



2017年には、SaaS事業となる広報・PR効果分析ツール「PR Analyzer®」を提供開始しました。従来の不透明な効果測定から、記事のリーチ数を自動算出する仕組みをつくりました。既に150社以上の導入実績があります。



50年以上続く「月刊メディア・データ®」を2019年に事業譲受してデータベース事業を内製化しました。600社のお客様に継続購入いただいています。データを活用した科学的なPRを実践してきました。













2021年には、メディアリレーション管理システム「Media Relations Management (MRM)」を社内リリースしました。行動履歴を基にした最適化されたメディアアプローチが可能になりました。

こうして、特に2017年以降はデータとテクノロジーに対して継続的に投資を行い、自社開発した複数のPR Tech®プロダクトをつくってきました。これからも、不透明・不確実・非効率といわれているPR業務のプロセスと成果を可視化し、データとテクノロジーでPRを進化させていきます。こうした決意をミッションに盛り込みました。


共感あふれる未来をつくる

コミュニケーションの先にあるものーそれは「共感」です。私はビルコム創業前の、ソースネクストの広報宣伝部時代から数えると20年もの間PRに従事しています。PRで伝えることは、機能でもなく、価格でもないとつくづく思います。私なりの言葉でいえば、その企業や人に内在する「哲学」を伝えていると思うのです。


私は、週に数日スタバに通っています。季節のメニューやコーヒーが美味しいというのもあるのですが、紙カップに手書きでメッセージを書いてくれる店員さんのホスピタリティや、座ると読書したくなるようなお店の雰囲気、時々お店で開催されるイベントやセミナー、そして気候変動やエシカルに対する取り組みなど、スタバが大切にしている哲学に共感して、お店に通っているのだと思います。哲学に共感して人は動く。共感を生み出すPRのお手伝いをしたいと思います。


市場を創造する。評判を形成する。

売上をあげる。採用を増やす。士気を高める。


こうした企業のコミュニケーション目的を達成するには、いかに強く、深い共感を得るのかがとても重要です。顧客と社会をつなぐ共感を生み出したい。心からそう思っています。そのために、私たちは、お客様やパートナーと共に価値を創り、想いを伝えることで、未知なる感動を生み出します。











ミッション策定までのプロセス

昨年の2021年8月17日に、取締役の早川が経営会議メンバーに投げかけたSlackから検討が始まりました。






ここから、ミニBK(経営会議メンバーが夜集まって経営課題について議論する場)で6回、経営会議で3回、取締役会では10月から議論をはじめ、全社も巻き込みながらミッションステートメントの構成から内容までを決めていきました。














ビルコムが大切にしている意思決定フローの、「ボトムアップとトップダウンの相互作用」を地で行くように新ミッションを決めていきました。



ミッションと事業の関係

ミッションは事業を規定します。

裏を返せば、ミッションと事業を分離して考えることはできません。


「共感あふれる未来をつくる」ために、どういう事業を展開するべきかが明確になりました。これまで新規事業は、市場環境や競争環境などの当該事業の採算性を検討して始めることが多かったのですが、「儲かりそうだからやる」という判断基準ではなく、「それはビルコムが手がけるべき事業なのか?」と自問する礎が生まれました。

ミッションは自社の存在価値でもあり、アイデンティティでもあります。新しいPRを事業の中核に据えて、社会のあるべき姿を彩るために、その架け橋となる事業をこれからもつくっていきます。










新ミッションに基づき、これからもお客様や社会に役立つ会社として努力を重ねてまいります。今後ともご支援を賜りますようお願い申し上げます。

太田滋

2021年4月1日木曜日

21新卒入社式式辞「大きな夢を持とう」


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本日、無事に2021年度の入社式が執り行われました。昨年に続きコロナ禍で大変な時代ですが、気持ちを新たに一歩ずつ前に進んでいきたいと思います。

式辞で述べた原文を転載します。

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 2021年4月1日

2021年度 新卒入社式 式辞

ビルコム株式会社

代表取締役兼CEO 太田滋


 本日からビルコムの仲間になった皆さん、入社おめでとうございます。私たちはPR業界の最前線に立っています。時代は広告からPRへ、枠から人へ、施策からメッセージへと移り変わっています。その時代を牽引するべく、全員が懸命に努力しているところです。


 PRという仕事は平たく言うと、「意味付けする行為」です。企業や商品をより輝かせるために意味付けを行います。生活者にとって差別化が難しい商品をどのように意味付けするのか。社員にとって職場環境をどのように意味付けするのか。採用候補者にとってその会社で働く意義をどう意味付けするのか。顧客、社員、採用候補者、株主、地域、社会といったステークホルダーそれぞれにとっての意味付けを行うという、ある意味高尚なことを生業としているわけです。知力と人間力で顧客価値を生み出すエージェンシー、データ分析のSaaS「PR Analyzer®」、唯一無二のメディアデータベースという三つの事業でビルコムは独自のポジションを確立しています。


 大量伝達・大量消費の時代は終焉しました。きめ細やかなSNS時代のパブリック・リレーションズが必要になったわけです。情報の流通構造が複雑化し、時々刻々と世相が変化する中で私たちは毎日コミュニケーションの技術を磨き、経験を積み、知見を蓄えています。


 今までの大学生活とは打って変わって、お客様から対価をいただき、それ以上の価値を自ら主体的に提供することは本当に大変なことです。プロフェッショナルとして選ばれて、輝くためにはどうすればいいのでしょうか。社長である私と、新入社員である皆さんが同じようにできることは何でしょうか。


 それは大きな夢を持つことです。自分が将来なりたい夢を描くのです。ビルコムのビジョンは「世界をより感動できる社会にする」です。社会的矛盾を解消し、新しい文化を創造する。そして努力が報われる社会にする。私たちは良質なコミュニケーションを通じて世界をより感動できる社会にするという夢を持っています。会社、ひいては社会から選ばれるプロフェッショナルになっていくためには、目の前の1にフォーカスすると同時に大きな夢を持ち、その夢を忘れずに努力を重ねていく粘り強さが必要です。今日は皆さんが社会人になった初日です。その記念すべき日に、皆さんが10年後に実現したい大きな夢をノートに書いてみてください。


 「できない理由より、できるための手段を考えよう」というビルコムの口ぐせがあります。創業から今までずっと大切にしている言葉です。できない理由を並べることは簡単です。時間がない、お金がない。他人のせい、会社のせい。しかし、できない理由を並べても何も変化は起こりません。どうすればできるのか?この一点にフォーカスして考え抜き、行動することで未来が拓けます。


 今、私自身が、この言葉の意味を重く受け止めています。昨年から新しくやり始めたことがありました。まず、コロナという新たな脅威に対して経営の在り方を変えたことです。月次評価システム、リモートワーク、幅広い業務のオンライン化など多くのことを始めました。次に、青山学院大学大学院で教鞭を執り始めたことです。週に一回90分の授業を15週間続けることは社長業との兼ね合いの中で大変なことです。最後に、プライベートではトライアスロンを始めました。トライアスロンはスイム・バイク・ランニングの三種目を連続して行います。体力だけでなく精神力も求められるスポーツです。幾つになっても新しいことに挑戦することが私の生き様です。


 挑戦は苦労を伴います。何度も「辛いな」「大変だ」「時間がない」と思ったことがありました。しかし、社内外の仲間に支えられて全てをこなすことができたのです。「できない理由より、できるための手段を考えよう」の裏側には仲間がいるのです。一人で抱え込む必要は全くありません。厳しくも優しく、ともに悩み、喜怒哀楽を分かち合える仲間がビルコムにいます。仲間とともに大きな夢を実現しましょう。


 皆さんには、ビルコムという会社で「これがやりたかったことだ」というものを見つけて欲しいと思います。天職は何歳になってもわかりませんが、他者から「ありがとう」「助かった」と言われるような仕事をして欲しいと心から思います。新入社員も、今いる社員の皆さんも、めちゃくちゃいい仕事をしていきましょう。本日はビルコムに入社おめでとうございました。




2020年4月25日土曜日

企業経営のニューノーマル


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今月の社内報で「企業経営のニューノーマル」について書きました。

<社内のesaにアップしたメッセージ>
















以下に原文を転載します。

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新型コロナウイルスが国内で猛威を振るってはや2ヶ月が経ちました。当社では2月21日に対策方針「事業継続と安心安全の両立」を策定しました。その後4月1日と2日の両日で在宅勤務のトライアルを実施し、4月7日から全従業員を対象に原則在宅勤務を行うことになりました。この社内報を書いている4月25日現在も在宅勤務の状態が続いています。私なりに今考えていることを皆さんと共有したいと思っています。

○アフターコロナのニューノーマル
ニューノーマルとは「新常態」と訳され、新しい常識を意味します。新型コロナによって急激に変革を求められた企業が以前と元通りになるということはないでしょう。新型コロナが収束した後のいわゆるアフターコロナの世界は様相が大きく変わります。その変化を一言でいえば、「企業活動が場所と時間の制約から解放される」ということです。単に働き方の変化だけでなく、経営指標、予算配分、人事制度等々の企業経営におけるニューノーマルについて考察してみます。

○リモートワーク至上主義にはならない
緊急事態宣言が発出されて、皆さんに最も大きく影響があったのは働く場所ではないでしょうか。外出自粛と出社7割減の要請を受けて在宅勤務になりました。アフターコロナでも多くの企業が、在宅勤務をはじめとしたリモートワークを採り入れるでしょう。在宅勤務がもたらす影響は三段階あると思います。まず日本では在宅勤務が一般的でなかったことと通勤時のストレスが過多だったことから、通勤時間が減り、満員電車のストレスから解放されたといったポジティブな反応がありました。これがフェーズ1にみられる短期的な効果です。次に在宅勤務の歪みが露呈しました。歪みとは、孤独感や不安、連帯感の欠如、オンとオフの切り替えの難しさ、運動不足によるストレスの蓄積です。人間は他者と「関わる」という基本的欲求を持っています。その欲求が満たされないと喪失感や不安に襲われます。自分から求めないと他者と関わることができない状態は長く続きません。このフェーズ2で仕事の生産性は逓減していきます。最後は業務プロセスの変革です。フェーズ1と2を経て、どのように業務プロセスを変えて定着させていくのかというのがフェーズ3です。こう考えていくと、アフターコロナは、会社勤務、在宅勤務、サテライトオフィスといった複数の拠点で仕事をする働き方が定着していくでしょう。その場合、働く場所を自由に選べるようにするのか、会社が指定するのかといった運用は業種や職種によって対応が変わるでしょう。

○持続的成長に社会的安心が加わる
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した企業経営を「サステナビリティ経営」といいますが、アフターコロナではサステナビリティに含まれる要素が増えるでしょう。具体的には、環境、社会、ガバナンスに加えて、「社会的安心(Social Well-being)」が加わるのではないでしょうか。企業は従業員の健康と安心に対してこれまで以上に配慮する必要が出てきます。例えば、感染者が1人出たことで本社を全て閉鎖せざるを得なかったことを受けて、オフィス拠点を分散させるとか、子育てと仕事を両立するためにコアタイムを廃止したり、ベビーシッター補助金を出したりといったことです。

○ミッションドリブンな人が評価される
リモートワークが当たり前になると、仕事のプロセスや業務にかけた時間が見えにくくなり、定量的な成果への貢献がより求められます。また、個人で蓄積したナレッジや知見をSlackやesaなど会社のオンラインコミュニティへ積極的にシェアすることも求められます。つまり、会社と部門のミッションに対して定量的に成果を出すか、ナレッジや知見を組織コミュニティに還元するかといった2つの軸で個人が評価されるようになるでしょう。換言すれば、個人でノウハウを囲ってしまう人、何となく頭良さそうに評論だけしている人、かけた時間や労力のアピールが上手い人は評価されなくなります。明確な指示がないと動かない人、曖昧な状況に置かれたときのストレス耐性(曖昧耐性)が低い人もアウトプットが減っていくでしょう。企業は、間接部門含めて経営に対する貢献を定量的に示す指標の設計力が求められます。ミッションドリブンで主体的に動ける人とそうでない人は二極化していきます。会社と従業員の関係性が変わる契機となりそうです。

○販売管理費の内訳が変わっていく
これまで販売管理費の大半を占めていた「人件関連費」「地代家賃」が減り、予算の立て方が変わっていくでしょう。人件関連費は、給与・賞与・退職金・通勤費・旅費交通費・交際接待費です。年功序列は完全に崩壊し、成果ベースの評価制度の導入によって人材の流動性は高まり、正社員と業務委託の境目は希薄化します。リモートワークによって通勤費や旅費交通費、交際接待費は減るでしょう。一方、リモートワーク支援金や家賃補助のような福利厚生費の比率は高まっていきます。孤独感の払拭に使うバーチャルオフィスや、オンライン飲み会のツールといった社内のIT投資も増えるでしょう。

○業務のマニュアル化が進む
対面での研修や営業同行、OJTといった背中で見せる的な育成方法は難しくなっていきます。その代わりに業務のマニュアル化が進み、ノウハウを明文化して共有する仕組みが求められます。あうんの呼吸がなくなり、いかに企業の形式知を具体化するかが人員育成の鍵となるでしょう。社内研修を行う方法が減ることで、職種をローテンションしていくメンバーシップ雇用より、仕事に人がアサインされるジョブ型雇用が増えていきます。キャリアパスも会社が用意したローテーション型ではなく、自立自走型のキャリア構築が求められるでしょう。キャリア設計するスキルが求められます。

○テクノロジーへの適応力は必須スキルになる
Zoom、Slack、Miro、esa、Toggl、Backlog、Trelloなどのオンラインコラボレーションツールの活用が必須になります。こうした新しいツールに適応することが求められるでしょう。使い方を誰かに教わるのでなく、わからないことはググるといったリテラシーも必要です。一方、ナレッジが各ツールに分散してしまうため、会社としてナレッジを蓄積し、検索性を高め、全員が即時に活用できる仕組みをいかに作れるかが求められます。

○SaaSは連携性が重要になる
業務のオンライン化に伴って、営業、人事、経理、法務などのSaaS導入は加速化するでしょう。但し、それぞれのSaaSが分断されている中で多くのSaaSを導入すると非効率が発生します。例えば、勤怠管理はツールA、経費精算はツールB、SFAはツールC・・・といった形でやみくもに色々なSaaSを導入しても非効率です。企業のバリューチェーンは連携しているからです。SaaS間の連携を図っていく動きが出てくるでしょう。どれとどれが連携しているのかといったSaaSのエコシステム構築が新たな論点として出てきます。

○文章力が組織の生産性を規定する
ナレッジの共有、業務のマニュアル化、社内外のテキストによるコミュニケーションが増えることで文章力が組織の生産性の規定要因になるでしょう。何を言いたいのかわからない文章、論点が明確でない文章は組織の生産性を下げます。「目的」「背景」「経緯」「メリット・デメリット」といった構造化された文章フォーマットを作る必要がありそうです。

○商談はスライド作成力が求められる
 ビデオ会議で営業や商談をしている方も増えています。その際、画面共有でプレゼン資料を用いることがほとんどでしょう。プレゼンで用いるスライドが文字ばかりで、フォントサイズは小さくて読みにくく、図解表現が稚拙で、必要以上に多くの色が使われている資料だと視認性や可読性が低くなり、それだけで商談はうまく進まないでしょう。端的に、わかりやすく、相手に刺さるスライド作成力が求められます。

○Must Haveなものだけが残る
仕事でも、プライベートでもなくてはならない“Must Have”なものだけが残るでしょう。裏を返せば、あったらいいなといった“Nice to have”なものは淘汰されます。対面での会社勤務と違って、在宅勤務では上司や同僚に細かい相談がしにくくなります。例えば、これまで資料作成の進捗を20%・40%・60%・80%の完成度で4回相談していた人が、在宅勤務で同じことをやろうとすると毎回ビデオ会議を開催しなければならず非効率です。細かい相談よりもまずはアウトプットを出してフィードバックをもらい、自分で仕上げていくラストマンシップが求められます。仕事では、これまで慣習的にやっていた無駄な業務(例えば、誰も読んでいない議事録作成や参加者の発言が少ない定例会)はなくなっていきます。コロナ禍で商業施設やお店が長らく閉まっています。プライベートでもミニマルな生活に慣れて、承認欲求や自己顕示欲を満たす過剰な消費や華美な生活は減っていくでしょう。

○リーダーシップはビジビリティが鍵になる
オンラインによる業務が当たり前になることによって、リーダーシップのあり方も変わるでしょう。これまでは膝と膝を突き合わせて意見を傾聴し、議論しながら物事を決めていたリーダーも、物理的に離れているメンバーを束ねてリーダーシップを発揮する必要があります。そのためにはビジビリティ(Visibility)が重要です。ビジビリティとは、頻度高い情報発信と傾聴、顔が見えるコミュニケーション、業務以外で感情を分かち合うなど、リーダーの機能価値と情緒価値の両面から存在感を出していくことです。オンライン環境下でもチームを鼓舞する、こまめにSlackでスタンプや返信をするといったオンラインコミュニティにメンバーを巻き込みスキルが求められます。ビジビリティが低いリーダーの存在価値は減っていくことになるでしょう。

○新しい職種・職業が生まれる
例えば、大人数の参加者をオンライン上でファシリテーションするオンラインファシリテーターや、特定の領域で専門的な活動をしていた方がオンラインサロンの主宰をするといった新たな職種や職業が生まれるでしょう。プロダクトのオンラインメディア化、オンラインメディアのプロダクト化といった「世界観」、「共創」、「コミュニティ」が鍵となるD2C市場も拡大するでしょう。

○組織はよりフラット化していく
従来の組織図の意義が薄くなるでしょう。社長を頂点とした部長・課長・次長といったいわゆるピラミッド化した組織図や指示系統だと機動性が低くなります。組織の階層構造による間接コミュニケーションは減り、プロジェクトのオーナーがメンバー全員に指示するようになります。従来の等級制度の意味も希薄化し、等級や肩書が重要な時代ではなく、組織に貢献する人の存在感が増していきます。等級や肩書がなくなることで、給与の原資配分方法や、人件費コントロールも変わっていくでしょう。採用基準も大きく変わりそうです。

○オンとオフの切り替えがメンタルヘルスに直結する
常時オンライン(Always on)の状態からいかに脱却化させるかがメンタルヘルスの重要対策になるでしょう。一斉出社・退社がなくなり、子育て中の親は子供が寝た後に仕事をしたり、コアタイムがないフルフレックス制を取り入れたりするとオンとオフの切り替えが難しくなります。昼夜問わずSlackやTeamsの通知がなる、といったことは精神衛生上よくありません。オンとオフの切り替えをするために、会社としてオンラインハッピーアワーを取り入れたり、オンラインランチの雑談タイムを設けたりといったオンとオフの切り替えを推進する施策が求められます。

○バリューが変わっていく
ビジョン・ミッション・バリューの中でも特にバリュー(行動指針)は変わっていくでしょう。ノウハウをオンライン上で積極的に公開した企業に人が集まり、オンラインツールによってリアルタイムのコミュニケーションが求められ、他者を慮る人に共感が集まるようになります。会社に所属する正社員の意義はミッションとバリューのコミットメントに収斂していくため(業務委託契約は業務にコミットしていく)、組織におけるバリューをどう変えていくのかが重要になります。これまでバリューの体現度を360度評価や社内アワードで表彰していた企業も、新たな表彰制度をどう運用していくかかが問われることになるでしょう。

○最後に
最近、ビルコムの強みは独立系ならではの変化適応力ではないかと考えるようになりました。外部環境が大きく変わっても、その変化に適応し、俊敏に経営スタイルを変えていく。企業経営のニューノーマルは一定ではなく、時々刻々と進化させていくものです。アフターコロナに向けて、新たな経営の枠組みを共に創っていきましょう!