<社内のesaにアップしたメッセージ>
以下に原文を転載します。
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新型コロナウイルスが国内で猛威を振るってはや2ヶ月が経ちました。当社では2月21日に対策方針「事業継続と安心安全の両立」を策定しました。その後4月1日と2日の両日で在宅勤務のトライアルを実施し、4月7日から全従業員を対象に原則在宅勤務を行うことになりました。この社内報を書いている4月25日現在も在宅勤務の状態が続いています。私なりに今考えていることを皆さんと共有したいと思っています。
○アフターコロナのニューノーマル
ニューノーマルとは「新常態」と訳され、新しい常識を意味します。新型コロナによって急激に変革を求められた企業が以前と元通りになるということはないでしょう。新型コロナが収束した後のいわゆるアフターコロナの世界は様相が大きく変わります。その変化を一言でいえば、「企業活動が場所と時間の制約から解放される」ということです。単に働き方の変化だけでなく、経営指標、予算配分、人事制度等々の企業経営におけるニューノーマルについて考察してみます。
○リモートワーク至上主義にはならない
緊急事態宣言が発出されて、皆さんに最も大きく影響があったのは働く場所ではないでしょうか。外出自粛と出社7割減の要請を受けて在宅勤務になりました。アフターコロナでも多くの企業が、在宅勤務をはじめとしたリモートワークを採り入れるでしょう。在宅勤務がもたらす影響は三段階あると思います。まず日本では在宅勤務が一般的でなかったことと通勤時のストレスが過多だったことから、通勤時間が減り、満員電車のストレスから解放されたといったポジティブな反応がありました。これがフェーズ1にみられる短期的な効果です。次に在宅勤務の歪みが露呈しました。歪みとは、孤独感や不安、連帯感の欠如、オンとオフの切り替えの難しさ、運動不足によるストレスの蓄積です。人間は他者と「関わる」という基本的欲求を持っています。その欲求が満たされないと喪失感や不安に襲われます。自分から求めないと他者と関わることができない状態は長く続きません。このフェーズ2で仕事の生産性は逓減していきます。最後は業務プロセスの変革です。フェーズ1と2を経て、どのように業務プロセスを変えて定着させていくのかというのがフェーズ3です。こう考えていくと、アフターコロナは、会社勤務、在宅勤務、サテライトオフィスといった複数の拠点で仕事をする働き方が定着していくでしょう。その場合、働く場所を自由に選べるようにするのか、会社が指定するのかといった運用は業種や職種によって対応が変わるでしょう。
○持続的成長に社会的安心が加わる
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した企業経営を「サステナビリティ経営」といいますが、アフターコロナではサステナビリティに含まれる要素が増えるでしょう。具体的には、環境、社会、ガバナンスに加えて、「社会的安心(Social Well-being)」が加わるのではないでしょうか。企業は従業員の健康と安心に対してこれまで以上に配慮する必要が出てきます。例えば、感染者が1人出たことで本社を全て閉鎖せざるを得なかったことを受けて、オフィス拠点を分散させるとか、子育てと仕事を両立するためにコアタイムを廃止したり、ベビーシッター補助金を出したりといったことです。
○ミッションドリブンな人が評価される
リモートワークが当たり前になると、仕事のプロセスや業務にかけた時間が見えにくくなり、定量的な成果への貢献がより求められます。また、個人で蓄積したナレッジや知見をSlackやesaなど会社のオンラインコミュニティへ積極的にシェアすることも求められます。つまり、会社と部門のミッションに対して定量的に成果を出すか、ナレッジや知見を組織コミュニティに還元するかといった2つの軸で個人が評価されるようになるでしょう。換言すれば、個人でノウハウを囲ってしまう人、何となく頭良さそうに評論だけしている人、かけた時間や労力のアピールが上手い人は評価されなくなります。明確な指示がないと動かない人、曖昧な状況に置かれたときのストレス耐性(曖昧耐性)が低い人もアウトプットが減っていくでしょう。企業は、間接部門含めて経営に対する貢献を定量的に示す指標の設計力が求められます。ミッションドリブンで主体的に動ける人とそうでない人は二極化していきます。会社と従業員の関係性が変わる契機となりそうです。
○販売管理費の内訳が変わっていく
これまで販売管理費の大半を占めていた「人件関連費」「地代家賃」が減り、予算の立て方が変わっていくでしょう。人件関連費は、給与・賞与・退職金・通勤費・旅費交通費・交際接待費です。年功序列は完全に崩壊し、成果ベースの評価制度の導入によって人材の流動性は高まり、正社員と業務委託の境目は希薄化します。リモートワークによって通勤費や旅費交通費、交際接待費は減るでしょう。一方、リモートワーク支援金や家賃補助のような福利厚生費の比率は高まっていきます。孤独感の払拭に使うバーチャルオフィスや、オンライン飲み会のツールといった社内のIT投資も増えるでしょう。
○業務のマニュアル化が進む
対面での研修や営業同行、OJTといった背中で見せる的な育成方法は難しくなっていきます。その代わりに業務のマニュアル化が進み、ノウハウを明文化して共有する仕組みが求められます。あうんの呼吸がなくなり、いかに企業の形式知を具体化するかが人員育成の鍵となるでしょう。社内研修を行う方法が減ることで、職種をローテンションしていくメンバーシップ雇用より、仕事に人がアサインされるジョブ型雇用が増えていきます。キャリアパスも会社が用意したローテーション型ではなく、自立自走型のキャリア構築が求められるでしょう。キャリア設計するスキルが求められます。
○テクノロジーへの適応力は必須スキルになる
Zoom、Slack、Miro、esa、Toggl、Backlog、Trelloなどのオンラインコラボレーションツールの活用が必須になります。こうした新しいツールに適応することが求められるでしょう。使い方を誰かに教わるのでなく、わからないことはググるといったリテラシーも必要です。一方、ナレッジが各ツールに分散してしまうため、会社としてナレッジを蓄積し、検索性を高め、全員が即時に活用できる仕組みをいかに作れるかが求められます。
○SaaSは連携性が重要になる
業務のオンライン化に伴って、営業、人事、経理、法務などのSaaS導入は加速化するでしょう。但し、それぞれのSaaSが分断されている中で多くのSaaSを導入すると非効率が発生します。例えば、勤怠管理はツールA、経費精算はツールB、SFAはツールC・・・といった形でやみくもに色々なSaaSを導入しても非効率です。企業のバリューチェーンは連携しているからです。SaaS間の連携を図っていく動きが出てくるでしょう。どれとどれが連携しているのかといったSaaSのエコシステム構築が新たな論点として出てきます。
○文章力が組織の生産性を規定する
ナレッジの共有、業務のマニュアル化、社内外のテキストによるコミュニケーションが増えることで文章力が組織の生産性の規定要因になるでしょう。何を言いたいのかわからない文章、論点が明確でない文章は組織の生産性を下げます。「目的」「背景」「経緯」「メリット・デメリット」といった構造化された文章フォーマットを作る必要がありそうです。
○商談はスライド作成力が求められる
ビデオ会議で営業や商談をしている方も増えています。その際、画面共有でプレゼン資料を用いることがほとんどでしょう。プレゼンで用いるスライドが文字ばかりで、フォントサイズは小さくて読みにくく、図解表現が稚拙で、必要以上に多くの色が使われている資料だと視認性や可読性が低くなり、それだけで商談はうまく進まないでしょう。端的に、わかりやすく、相手に刺さるスライド作成力が求められます。
○Must Haveなものだけが残る
仕事でも、プライベートでもなくてはならない“Must Have”なものだけが残るでしょう。裏を返せば、あったらいいなといった“Nice to have”なものは淘汰されます。対面での会社勤務と違って、在宅勤務では上司や同僚に細かい相談がしにくくなります。例えば、これまで資料作成の進捗を20%・40%・60%・80%の完成度で4回相談していた人が、在宅勤務で同じことをやろうとすると毎回ビデオ会議を開催しなければならず非効率です。細かい相談よりもまずはアウトプットを出してフィードバックをもらい、自分で仕上げていくラストマンシップが求められます。仕事では、これまで慣習的にやっていた無駄な業務(例えば、誰も読んでいない議事録作成や参加者の発言が少ない定例会)はなくなっていきます。コロナ禍で商業施設やお店が長らく閉まっています。プライベートでもミニマルな生活に慣れて、承認欲求や自己顕示欲を満たす過剰な消費や華美な生活は減っていくでしょう。
○リーダーシップはビジビリティが鍵になる
オンラインによる業務が当たり前になることによって、リーダーシップのあり方も変わるでしょう。これまでは膝と膝を突き合わせて意見を傾聴し、議論しながら物事を決めていたリーダーも、物理的に離れているメンバーを束ねてリーダーシップを発揮する必要があります。そのためにはビジビリティ(Visibility)が重要です。ビジビリティとは、頻度高い情報発信と傾聴、顔が見えるコミュニケーション、業務以外で感情を分かち合うなど、リーダーの機能価値と情緒価値の両面から存在感を出していくことです。オンライン環境下でもチームを鼓舞する、こまめにSlackでスタンプや返信をするといったオンラインコミュニティにメンバーを巻き込みスキルが求められます。ビジビリティが低いリーダーの存在価値は減っていくことになるでしょう。
○新しい職種・職業が生まれる
例えば、大人数の参加者をオンライン上でファシリテーションするオンラインファシリテーターや、特定の領域で専門的な活動をしていた方がオンラインサロンの主宰をするといった新たな職種や職業が生まれるでしょう。プロダクトのオンラインメディア化、オンラインメディアのプロダクト化といった「世界観」、「共創」、「コミュニティ」が鍵となるD2C市場も拡大するでしょう。
○組織はよりフラット化していく
従来の組織図の意義が薄くなるでしょう。社長を頂点とした部長・課長・次長といったいわゆるピラミッド化した組織図や指示系統だと機動性が低くなります。組織の階層構造による間接コミュニケーションは減り、プロジェクトのオーナーがメンバー全員に指示するようになります。従来の等級制度の意味も希薄化し、等級や肩書が重要な時代ではなく、組織に貢献する人の存在感が増していきます。等級や肩書がなくなることで、給与の原資配分方法や、人件費コントロールも変わっていくでしょう。採用基準も大きく変わりそうです。
○オンとオフの切り替えがメンタルヘルスに直結する
常時オンライン(Always on)の状態からいかに脱却化させるかがメンタルヘルスの重要対策になるでしょう。一斉出社・退社がなくなり、子育て中の親は子供が寝た後に仕事をしたり、コアタイムがないフルフレックス制を取り入れたりするとオンとオフの切り替えが難しくなります。昼夜問わずSlackやTeamsの通知がなる、といったことは精神衛生上よくありません。オンとオフの切り替えをするために、会社としてオンラインハッピーアワーを取り入れたり、オンラインランチの雑談タイムを設けたりといったオンとオフの切り替えを推進する施策が求められます。
○バリューが変わっていく
ビジョン・ミッション・バリューの中でも特にバリュー(行動指針)は変わっていくでしょう。ノウハウをオンライン上で積極的に公開した企業に人が集まり、オンラインツールによってリアルタイムのコミュニケーションが求められ、他者を慮る人に共感が集まるようになります。会社に所属する正社員の意義はミッションとバリューのコミットメントに収斂していくため(業務委託契約は業務にコミットしていく)、組織におけるバリューをどう変えていくのかが重要になります。これまでバリューの体現度を360度評価や社内アワードで表彰していた企業も、新たな表彰制度をどう運用していくかかが問われることになるでしょう。
○最後に
最近、ビルコムの強みは独立系ならではの変化適応力ではないかと考えるようになりました。外部環境が大きく変わっても、その変化に適応し、俊敏に経営スタイルを変えていく。企業経営のニューノーマルは一定ではなく、時々刻々と進化させていくものです。アフターコロナに向けて、新たな経営の枠組みを共に創っていきましょう!
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